どこも人手不足なのはなぜ?日本が人手不足の根本的な原因
人手不足の根本的な原因には、いくつかの要素が考えられます。以下に代表的なものを挙げてみます。
1. 少子高齢化
日本では、少子高齢化が進行しています。出生率が低下し続け、必要な労働力が供給されにくくなっています。一方で、医療技術の進歩や生活水準の向上により平均寿命が延び、高齢者の割合が増加しています。これにより、労働力人口が減少し、企業は必要な人材を確保するのが難しくなっています。特に若年層の労働者が減少しているため、将来的な労働力不足がさらに深刻化することが懸念されています。
2. 都市部への人口集中
都市部への人口移動が進むことで、地方の企業が労働力を確保するのが難しくなっています。大都市には多くの就業機会や文化施設、教育機関が集中しているため、特に若い世代は都市部での生活を希望する傾向があります。その一方で、地方ではインフラの整備が遅れていたり、賃金水準が低かったりするため、若者が魅力を感じにくい状況です。この結果、地方の中小企業は労働力を確保するのに苦労しています。
3. 労働環境の問題
労働条件や職場環境が良くない企業では、人手不足が顕著になります。長時間労働や過労が深刻な問題となっており、これが労働者の健康に悪影響を及ぼし、離職の原因となっています。
賃金水準が低い企業では、特に優秀な人材が集まりにくく、昇給の機会が少ないと従業員のモチベーションも低下します。また、企業が提供する福利厚生が充実していない場合、従業員の定着率が低下し、求人難に直面します。
4. スキルミスマッチ
企業が求めるスキルと求職者が持っているスキルが一致しない場合、人手不足が生じます。特にIT、エンジニアリング、医療などの専門職では、高度なスキルが求められますが、そのスキルを持つ人材が不足しています。教育機関でのカリキュラムと労働市場のニーズが一致していないことも、スキルミスマッチの一因です。このため、企業は即戦力となる人材を見つけるのが難しくなっています。
5. 労働市場の流動性
日本の労働市場は流動性が低いとされています。文化的な要因も影響しており、日本では一度企業に就職すると、長期的に同じ企業で働くことが理想とされる傾向があります。このため、転職が難しいと感じる人が多く、新しい職場に移ることに抵抗を感じる人が多いのです。また、転職活動に対するサポートが不十分であったり、情報不足が障壁となっているため、企業が新しい人材を採用するのが難しくなっています。
6. 働き方の変化
リモートワークやフリーランスなど、従来の雇用形態以外の働き方が増えています。テクノロジーの進化により、リモートワークが可能になり、多くの労働者が場所にとらわれない働き方を選ぶようになっています。自由な働き方を求める人々が増え、フリーランスとして働くことを選ぶ人が増えています。このため、企業は正社員としての雇用が難しくなっており、柔軟な働き方を提供する必要性が高まっています。
7. 業界ごとの特性
特定の業界では、もともと労働力の需要が高いため、人手不足が特に深刻です。例えば、介護業界では、高齢化に伴い介護サービスの需要が増加していますが、介護職は低賃金・過酷な労働条件のため、求人が難しいです。建設業界も労働力不足が深刻で、特に若い世代が敬遠する傾向にあります。逆に人気職もあり、事務などの職種は人が集まりやすくなっています。
下記は業界ごとの求人倍率です。1を超えると人手不足になります。
令和6年4月 | 有効求人倍率(パート含む) | 有効求人倍率(パート除く) |
---|---|---|
保安職業従事者 | 6.13 | 7.18 |
建設・採掘従事者 | 5.41 | 6.25 |
サービス職業従事者 | 3.61 | 3.41 |
販売従事者 | 2.82 | 2.83 |
輸送・機械運転従事者 | 2.52 | 2.81 |
生産工程従事者 | 2.11 | 2.22 |
専門的・技術的職業従事者 | 1.91 | 2.2 |
農林漁業従事者 | 1.41 | 1.53 |
運輸・清掃・包装等従事者 | 1.28 | 1.2 |
事務従事者 | 0.62 | 0.62 |
若者はどこへいったのか
様々な理由がありますが、若者の減少の主な原因は人口の減少です。
日本では少子化が進行しており、若者の絶対数が減少しています。1990年代の出生率低下は現在の労働市場に大きな影響を与えています。例えば、1990年代初頭には1,500万人を超えていた15-24歳の人口が、現在では1,000万人を下回っています。
将来的には、若者の減少がさらに顕著になることが予想されています。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、2040年には15-24歳の人口がさらに減少し、800万人を下回るとされています。このままでは、企業間での若者を巡る競争がますます激化し、人材確保が一層困難になるでしょう。
人手不足はいつまで続く?今後の予測
大きな変化がなければいつまでも続く可能性が高いです。
人口動態の予測によれば、サービス業を支える15~64歳の生産年齢人口は、2040年には現在から1,100万人減少します。このような「高齢者世代が増加し、生産年齢人口が急激に減少する未来」は、多くの人が認識していることでしょう。これは現在の近畿圏の労働人口に匹敵する人数です。2024年はこの問題が始まる年と言われており、労働人口から見る人手不足の悪化は顕著になっていきます。
人手不足は単に企業や産業の問題にとどまらず、私たちの生活を支える労働力が不足するという深刻な課題です。輸送、機械運転、建設、生産工程、商品販売、介護サービス、接客・飲食物調理、保健医療といった分野では、現在享受しているサービスを維持するための労働力が明らかに不足することが予測されています。
さらに、労働需給のシミュレーションでは、人口が減少しても労働需要は減少しないとされています。これは、高齢者世代が多くの生活サービスに依存しているためです。
人手不足の業界ランキング2024
帝国データバンク:人手不足に対する企業の動向調査の調査結果をご紹介します。
正社員の人手不足を業種別に見ると、「情報サービス」が77.0%で最も高く、15カ月連続で7割以上の高水準を維持しています。これは、過去最高の数値です。
背景には、システム関連の需要が旺盛であることが挙げられます。具体的には、「企業のシステム刷新プロジェクトが相次ぎ、人手不足が続いている」(東京都)、「企業の設備投資意欲が高く、人手が足りていない」(神奈川県)、「システム開発の案件が増えているが、人材不足で対応できず受注に結びつかない」(東京都)などの声が聞かれ、人手不足がボトルネックとなっています。
さらに、「建設」(69.2%)や、インバウンド需要が活況な「旅館・ホテル」(68.6%)など、他の8業種でも人手不足が6割台と高い水準を示しています。
非正社員の人手不足割合を業種別に見ると、「飲食店」が72.2%でトップとなっています。前年同月から8.2ポイント減少し、人手不足はやや緩和されたものの、依然として最も高い水準にあります。
次いで「人材派遣・紹介」が62.0%で、人手不足の高まりによる需要増から派遣人材の不足が顕著です。また、正社員の人手不足でも上位となった「旅館・ホテル」が59.6%で続いています。
これらのデータから、小売やサービス業を中心に個人向け業種で非正社員の人手不足が特に目立っています。
人手不足はなぜ問題になるのか?
近年、深刻化する人手不足は社会と企業の両面で多大な影響を及ぼしています。労働力が不足することで、私たちの日常生活に欠かせないサービスの質が低下し、経済成長が鈍化するだけでなく、企業の競争力や生産性も大きく損なわれます。人手不足がもたらす具体的な問題点を社会と企業の視点から詳しく解説します。
社会における人手不足の問題
サービスの低下と質の悪化
人手不足が続くと、輸送、医療、教育、介護などの基本的なサービスの提供が困難になります。例えば、公共交通機関の運行本数が減少したり、医療機関での診察待ち時間が長くなったりします。介護施設では、スタッフ不足により入所待機者が増加し、十分なケアが行き届かないこともあります。また、教育現場では教員の負担が増え、生徒一人ひとりに対する教育の質が低下するリスクがあります。
さらに、インフラの維持や整備にも影響が及びます。例えば、道路や橋梁の点検・修繕作業が遅れ、インフラの老朽化が進行することで、安全性が低下します。電力、水道、通信といったライフラインの管理も手薄になり、社会全体の生活の質が大きく損なわれる可能性があります。
経済成長の鈍化
労働力不足は経済成長の足かせとなります。生産性が低下し、GDPの成長が停滞することから、国全体の競争力が低下します。企業が必要な人材を確保できないと、プロジェクトの遅延や中止、品質の低下が発生し、これが長期的な経済成長を阻害します。また、労働力不足により賃金が上昇すると、企業のコストが増加し、インフレ圧力が高まります。これが消費者物価に波及し、購買力の低下を招く可能性もあります。
社会保障の圧迫
働く世代の減少により、税収が減少する一方で、高齢者への年金や医療費などの社会保障費が増加します。これは、労働市場の縮小と相まって、社会保障制度の持続可能性を脅かします。若い世代への負担が増えることで、経済的な不安定さが増し、将来的な消費や投資意欲が減退するリスクがあります。また、社会保障の財源確保のために増税が必要となる場合、これがさらなる経済活動の抑制につながる可能性もあります。
企業における人手不足の問題
生産性の低下
必要な労働力を確保できないと、企業の生産性が低下します。例えば、製造業ではラインの稼働率が低下し、納期に間に合わないことが増えます。サービス業では、顧客対応が遅れ、顧客満足度が低下することが考えられます。また、研究開発の分野では、必要なスキルを持つ人材が不足することで、イノベーションが停滞し、長期的な成長が阻害されることもあります。
成長機会の喪失
新規事業の展開や市場拡大のための人材が不足すると、企業は成長機会を逃してしまいます。特にIT業界や技術職では、適切なスキルを持つ人材が確保できないことで、競争力が低下します。例えば、新しいシステムの開発や導入が遅れ、市場での優位性を失うリスクがあります。また、海外展開を目指す企業では、現地の文化や言語に精通した人材が不足することで、国際競争力が低下します。
コストの増加
人手不足が深刻化すると、人材の確保や維持のためにコストが増加します。高い賃金や福利厚生の充実が必要となり、採用や研修にかかる費用も増えます。例えば、ヘッドハンティングやリクルートメント活動に多額の費用を投じる必要が生じます。また、離職率が高まることで、採用と教育のサイクルが頻繁になり、さらにコストがかさむことになります。これは、特に中小企業にとって大きな経済的負担となります。
従業員の負担増加
人手不足により、一人当たりの業務量が増加します。これにより従業員の疲労やストレスが蓄積し、労働環境が悪化します。例えば、過労やバーンアウトが増加し、健康問題を引き起こすリスクがあります。これが離職率の上昇につながり、さらに人手不足が深刻化するという悪循環に陥る可能性があります。従業員のモチベーションが低下し、生産性やサービスの質が低下することも懸念されます。
このように、人手不足は社会全体と企業の双方に深刻な影響を与えるため、早急な対策が求められています。政府や企業は協力して、労働環境の改善や働き方改革を進めることで、この課題に対応する必要があります。
倒産
人手不足からサービスの質の低下、コスト増加、従業員の負担増加による離職などで売上は減少しつづけ、最終的には倒産の可能性があります。
人手不足の会社の特徴
人手不足に悩む会社には、いくつかの共通した特徴があります。以下に簡単にまとめます。
- 対策が不十分 人手不足に対する具体的な対策を講じていない。内部の業務改善や労働環境の整備、人材募集の戦略が欠けている。
- 高い離職率 従業員が長く定着せず、頻繁に辞めていくため、常に人手不足の状態が続いている。
- 悪い口コミや評判 会社の内部事情が外部に伝わり、求職者から敬遠される傾向が強い。例えば、労働環境や管理体制についての悪評が広まっている。
- 採用と育成の問題 採用活動が効果的でなく、必要な人材を確保できない。また、入社後の研修や育成プログラムが整備されておらず、新人が定着しにくい。
- 労働環境の悪さ 労働条件や職場環境が悪く、従業員のモチベーションが低下している。例えば、長時間労働や過重労働が常態化している。
- 人材募集の戦略がない 効果的な人材募集の方法を採用しておらず、求職者に対して会社の魅力を十分に伝えられていない。例えば、求人広告の内容が不十分であったり、求職者が応募しにくい環境になっている。
これらの特徴を持つ企業は、人手不足を解消するために、内部の業務改善や労働環境の整備、人材募集の戦略を見直すことが求められます。
人手不足の会社が人を雇わないのはなぜ?
人手不足の会社が人を雇わない理由には、いくつかの要因があります。以下にその主要な理由を挙げます:
- コストの問題:
- 新しい従業員を雇うことには、採用、研修、福利厚生などのコストがかかります。特に中小企業では、これらのコストが大きな負担となることがあります。
- 適切な人材が見つからない:
- 専門的なスキルや経験を持つ人材が不足している場合、適切な人材を見つけるのが難しいことがあります。
- 採用プロセスの負担:
- 採用活動には時間と労力が必要です。これが他の業務に影響を与えることを避けるために、採用を控える企業もあります。
- 不確実な経済状況:
- 経済の不確実性や市場の変動によって、長期的な雇用の安定性に対する懸念がある場合、新しい従業員を雇うリスクを避ける企業が多いです。
- 自動化や効率化の追求:
- 人手不足の解消策として、業務の自動化や効率化を進める企業もあります。これにより、人手を増やす代わりに、現在の従業員で対応できる体制を整えることを目指します。
- 組織文化や社内体制の問題:
- 社内の文化や体制が新しい人材を受け入れる準備ができていない場合、雇用をためらうことがあります。特に、既存の従業員が新しいメンバーを歓迎しない環境では、採用が難しくなります。
これらの要因が組み合わさり、人手不足にもかかわらず新しい従業員を雇わない企業が存在するのです。
人手不足対策はどうすればいい?
人手不足に対処するためには、以下の戦略を検討すると効果的です。
1. 採用プロセスの改善
- LPとリスティング広告の活用:
- 求人情報のランディングページを作成し、リスティング広告を使ってターゲット層にリーチします。これにより、効率的に応募者を集めることができます。
- 魅力的な求人情報の作成:
- 仕事内容や企業文化、成長機会などを具体的に伝え、応募者にとって魅力的な内容にします。
2. 雇用条件の見直し
- 柔軟な勤務形態の導入:
- テレワークやフレックスタイム制度など、柔軟な働き方を提案することで、多様な人材を引き付けることができます。
- 競争力のある給与と福利厚生:
- 業界水準に合った給与と、充実した福利厚生を提供することで、応募者の関心を引きます。
3. 社内教育と研修
- 社内研修プログラムの強化:
- 必要なスキルを持っていない応募者でも、入社後に研修を通じて成長できる体制を整えます。
- キャリアパスの明確化:
- 従業員が将来的にどのように成長できるかを示すことで、長期的な定着を促進します。
4. 従業員の満足度向上
- オープンなコミュニケーション:
- 定期的なフィードバックや意見交換の場を設け、従業員の意見を取り入れることで、働きやすい環境を作ります。
- 働きがいのある職場づくり:
- チームビルディング活動や表彰制度を通じて、従業員のモチベーションを高めます。
5. 外部リソースの活用
- 派遣社員やフリーランスの活用:
- 短期的なプロジェクトや季節的な需要に対応するため、派遣社員やフリーランスを活用します。
- アウトソーシング:
- 業務の一部を外部に委託することで、コアビジネスに専念できるようにします。
6. 技術の活用
- 自動化ツールの導入:
- 業務の自動化や効率化を図るためのツールやソフトウェアを導入します。これにより、少ない人手でも高い生産性を維持できます。
- デジタルマーケティング:
- SNSやオンライン広告を活用して、広範な層にリーチします。
これらの対策を組み合わせることで、中小企業でも人手不足を効果的に解消し、競争力を維持することができます。